2014年1月13日月曜日

爬虫型


特殊な文章を11本収録。
「浴槽」「制服」「雲」「屏風」「定価」「地元」「駄作」「トイカメラ」「青」「ねじれ」「少女」。
料金(税込):880円(単品購入だと各110円)
購入はnoteで→爬虫型

 抜粋作品:浴槽

  毒ガスで風船を膨らませて、小学校の前で配る。家の水槽でサソリを飼っている。Yahoo!知恵袋でルミノール反応の消し方を聞く。そこそこの大学で就職先も吟味したのでブラック企業に入ることなく余暇を豊かに過ごしている。土手も歩く。晴天の青空をじっと眺めていると不安になって引きつった顔で笑ってしまい、バケツで様々な毒物を混ぜ合わせてしまう。子供達がビニールプールで遊んでいるような真昼の住宅街で。栗のいがのようなものを抱えて生きる。栗のいがのせいで心がスムーズに流れない。強力な溶剤を飲み干したくなる。曲がりくねった松のように晴天の空に向かって己を伸ばす。グニャグニャと引きつった笑顔で成長の悦楽に溺れよだれを垂らしながら上昇するのだ。正月にはあんぐりと口を開け長い長いムカデをズルズルと引きずり出す。この日の為に腹の中で飼い慣らしてきたムカデよ。福利厚生の充実したヤンキー上がりなどがいない職場でデスクワークに励みながらムカデもまたそこにいたのである。時折腹を撫で回し、ノートパソコンで無味乾燥な資料を作成する。どうしたんですか?なんて同じようにそこそこの大学を出た同僚に尋ねられれば、いや小腹が空いてね、なんて無味乾燥な返答を笑顔で返すのである。引きつらずとも笑顔が作れるというのに、晴天の青空の前ではそうはいかない。毎年引きずり出すムカデは長くなってゆく。体内がムカデに適応し、効率的に養分を送り込むようになっている。定年前には尻からこぼれる程のスピードで成長するようになっているのではないのだろうか。とても不安である。住宅ローンよりも不安である。夜中の住宅街では、怒鳴り声の聞こえる家などもあり、それなりに暴力の気配を感じ取れる。DVはワイドショーと現実の日常を繋ぐ架け橋だ。DVによってテレビの世界が私達の現実と地続きであることを教えてくれる。福利厚生の充実した職場の柔和な同僚や上司からも暴力が感じ取れるだろうか。誰が誰を殴っているかなんてわからない。今度上司の拳の匂いでも嗅いでみようかと思う。無論強引にそんなことはしない。適当な健康診断の話題などをでっち上げて拳を作らせ、了解を得た上で嗅ぐのだ。血の匂いがするだろうか。それでも自然な笑顔で、大丈夫みたいですね、とか答えておこう。

(了)