2014年1月13日月曜日

傾寸胴


特殊な文章を11本収録。
「葉脈」「田畑」「場末」「自転車」「松」「人間」「トレー」「高台」「CIA」「症例」「大蔵省」。
料金(税込):880円(単品購入だと各110円)
購入はnoteで→傾寸胴

  抜粋作品:葉脈

   親戚の子供が、大切にしている急須に「福島第一原発」などと油性マジックで書きやがったので、手慣れた動作で腰からベルトを引き抜いて、人生から輝きを奪ってやった。しかし私も、都会に住む身でありながら「大切にしている急須」なんぞを所有している状況はいかがなものであろうか。最近はベランダで瓢箪の栽培なども始めてしまった。電力がなくても瓢箪はできる。計画停電の闇、ロウソクを灯し、瓢箪を眺める。さてさて、我が家の「福島第一原発」でお茶を淹れるか。自嘲気味に呟き、お茶に満たされた茶碗を見ると茶柱が立っているではないか。ただちに縁起のいい燃料棒だ。この時の為に買っておいた扇子で頭をポンと叩き、放射能の降り注ぐ新世紀を乾いた笑いが込み上げる。手堅く生きてきた彼も彼等も東京電力には足をすくわれた。タワーマンションのように心が揺れ動いてもねずみ講の頂点を目指すようなことはせず、ハムスターのように頬を膨らませて蓄財し続けていたというのに、全てがただの最終ラインを耐えているゲロのようになってしまうなんてどういうことだ。これからずっと長い屁のように放射能が垂れ流されるのだ。昔、私が夜中に出した記録的な屁よりも長いだろう。あまりに長いので、このまま止まらず、全ての細胞が屁になって、がらんとしたアパートの一室だけが残るのではないか、そのように怯えたあの屁よりも長いのだ。やはり初動の遅れが問題だったのだろうか。東京電力の恋愛体質には困ったものだ。もう格納容器でキノコご飯でも炊くしかない。四つ葉のクローバーをくわえて不意にゴロンと寝転がる。無人の福島第一原発半径30kmに咲き誇る桜の中で逃避行してきた未来の誰かが花見をするのを空想し、もはや招致できるのはホームセンターくらいになってしまった大東京を生き延びる。

(了)