2014年1月13日月曜日

茸紋様


特殊な文章を11本収録。
「全裸」「豆腐」「野菜」「供物」「集金」「日暮里」「ストライク」「実験」「長押」「妨害」「ライオン」。
料金(税込):880円(単品購入だと各110円)
購入はnoteで→茸紋様

  抜粋作品:全裸

  「これを見なさい」1枚の写真を渡される「与一だ。君の許嫁だよ」。片手に鉤状の義手を付けた老人の写真。「80歳だ」「だが心配はいらない。与一は160歳まで生きる」「与一との時間はたっぷりある」。昨日遠くから与一を見かけた。森に逃げ込んだ脱サラを村田銃で脅かして来た帰りだった。私は悲しみを毛筆でしたため、夕焼けなどを見て過ごした。スカイネットの暴走により機械化された高卒が村を支配して早5年。漢字の読めない大卒が時折ゲリラ戦を仕掛ける。バス会社とタクシー会社、ガソリンスタンドを所有する巨大グループも学歴コンプレックスをバネにした小卒によって創業されたのだ。天皇陛下のラジオ放送を聞いた後、教室で教科書に墨を塗り、「因数分解じゃ腹膨れない」とだけ上書きされた。無論私も県立を出た後は一族の経営する保険の代理販売に手を染める。装甲された大卒の白タクが役場に突っ込んで来たらしい。容赦の無い銃弾の嵐を跳ね返すその頑丈な体躯を与一が一撃で仕留めたのだと言う。与一は義手ではあるものの機械化はされていない。駅前のあらゆる企業とも無関係な独立した存在であり、村の陰湿な論理からもまた中立を貫いていた。東京で成功した同級生の悪口で盛り上がる機械化された高卒と降伏した大卒達の同窓会を醒めた眼で眺める与一を見ているうちに私は己の未来について考えるようになったのだ。そうそして私は片道切符で村を出て、4年制大学軽音楽サークルのコンサートに日々出かけている。地方分権が達成されるずっとずっと以前の話である。

(了)