2014年1月13日月曜日

棒切象


特殊な文章を11本収録。
「デモ」「フランス」「ネズミ」「黎明」「啓示」「安全」「薬品」「適応」「武装」「古本」「遭遇」。 
料金(税込):880円(単品購入だと各110円)
購入はnoteで→棒切象

  抜粋作品:デモ

   暴利を貪る豚共に俺は言ってやった。焼き殺しちまうぞ。チャッカマンで焼き殺しちまうからな。変身前のチャッカマンには人並みの名前があったはずだ。終戦後、アルゼンチンに逃亡していたやくみつるの身柄が拘束された。「金貨など不要なのだ、ほしいのは命令だ。これからどう進展するのか知りたいのに」。裁判の後、コメンテーターが白衣を着た博士の監視下で社会の逸脱者を装った仕掛け人に電気ショックを流す「やくみつるテスト」が繰り返された。大半のコメンテーターは違和感を覚えつつも、権威的な博士の指示に従い致死レベルの電圧を与え続ける結果となった。ゆとり教育下における教師の裁量で俺はその歴史的事実を教えられた。人間も社会も歪な形をしているのだから円周率なんてどうでもいいのです。円周率なんておっぱいでいい。毎日、学校の帰り道に東京タワーを見た。夕焼けの中でそびえ立つそれは総務省と電通の監視下で電波を流し続けているのだ。電波もビリビリという音を立てて欲しいものだ。稲妻のように光って欲しい。それでこそ企てられた密室のような社会の姿が露になるというものだ。白衣を着た秋元康が冷徹な眼差しで「迷うことはありません、あなたは続けるべきです」と命令する。AKB48が眩し過ぎ、部屋を暗くしてテレビの前に座っていた者達が致死レベルの週刊文春を突き付けられる。「AKB48テスト」は容赦がない。俺は拳銃のようにチャッカマンをクルクルと弄び、東京タワーに火を付ける。うおお、うおお、と貧しい生活と低い地位を余儀なくされていた者達が快哉を叫ぶ。俺は点火したチャッカマンを歪んだ顔のこいつらに向け、意味ありげにカチャカチャと引き金を鳴らし、新しいテストの形を夢想する。

(了)