2014年1月13日月曜日

蟹無残


特殊な文章を11本収録。
「書体」「創造」「掃除」「故郷」「喧嘩」「都会」「覇権」「茶番」「幻想」「詐欺」「夜行」。
料金(税込):880円(単品購入だと各110円)
購入はnoteで→蟹無残

  抜粋作品:書体

   結婚披露宴の引き出物は土偶だった。海に落ちた車をクレーンで揚げると中から土偶が大量に発見されたニュースは聞いていたがこんな所に浸透しているとは意外であった。2回目のお色直しの時、新郎はふんどし一丁にひょっとこのお面で現れ来賓の者達は大いに驚いた。「おお」とどよめいたのだ。帰りのタクシーの中で親戚の男2名が「いやあいつまでもつかねえ」などと話している姿が隠し撮りされており映画「トランスフォーマー」の特典映像としてDVDに収録された。昨日駅前で新婦を見かけた。首から「公衆便所」と書かれた札をぶら下げて立っていた。もう夫婦喧嘩かね、と思ったがそうではなく昔から伝わる新郎一族の習わしとのことだった。鳥葬かこれかみたいな話でリポーターが雑草の生い茂る線路上を1人マイクで語りながら歩いてくるような風情であった。せっかくだから私も彼等の家の塀に「ひとごろし」などと書いてやった。深夜に再び赴きスプレーをカシャカシャと振りながらこの塀はキャンバス、俺がいた証…、俺がいる証…、HIPHOPな調子で「でていけ」とさらに吹き付けてやった。私は先日離婚したばかりで帰宅すると自分で灯りをつける。コンビニの弁当を温めて貪る。新聞を広げるとカラフルな土偶の記事が載っている。そのうち萌えだのラノベだの取り入れるんだろうか?まあ時代だね。ため息をつくと、一瞬卓上に飾ってある私の土偶がはにかんだような気がした。明日は晴天でツバメが飛ぶだろうな。

(了)